山川:老舗スペイン料理のこちらのお店は、何年目になりますか?コロナで、渋谷の街は、変化しましたか?
風間氏:オーナーが渋谷で始めて今年で44年です。コロナ前は夜遅くまで人が行き来していましたね。コロナ渦で、ほとんどの人が遊びではなく、仕事や何か用事を済ませて駅に向かうようになりました。以前は、グループで、食事もワインも楽しんでいただいて、2時間を目安にお店を回転させていたのですが、今はお子様連れや若い方が、目当てのものだけを食べて帰るという風に変わってしまった。パエリアを召し上がるお客様が45分で帰ったり。出来上がるのに時間がかかるんですけど、食べてすぐ帰る。だから、なるべく今まで時間がかかっていた前菜など、すぐに出せるようにしています。
写真)ドアを開けるとそこは、スペイン。賑やかな店内で、現地の雰囲気と本場の味が楽しめる。
山川:現地にいろいろな料理を見に行ったりされるんですか。現地の味と日本と違う部分などありますか?
風間氏:スペインに何年もいて修行をしたわけではないのですが、現地に行って食べたり、スタッフは僕以外スペイン人なので中にいると自分の勉強になる。この間もスペインから日本に来た現地の方にマグロ料理を出したら、すごいおいしいと喜んでいただいて、また来るから作って欲しいと。だから、マグロを釣りにいかないと(笑)。日本と違う部分は、味というよりも感覚が違うんですよ。日本でも家庭料理を作る時など計らないじゃないですか。スペイン料理もそうで、それに慣れるまで時間がかかりました。レシピって言われてますけど、一切なくて一応書いたけど、レシピを見ながら作っても、全然違って、その感覚を養うまですごい大変でした。レシピ教えてくださいと言われますが、このくらいの分量でやってます、でも同じものが作れるかどうかは、知りませんよと言っています。
写真)料理長の風間祐介氏は、スペインの本場の味を作り続けて、27年。趣味は、釣り。運が良ければ、料理長自ら釣り上げた魚料理がいただける。
山川:12 月の旬食材ほうれん草を使って、1 皿作って頂きましたが、先ほど調理の際、ほうれん草の水が出るから、出したいと。他の料理で使う時もそうなんですか?
風間氏:トルティージャは、ほうれん草をにんにくと一緒に炒めて香りを付けるのですが、水分が残っていると焼き上がりに影響が出るので、ザルに一度取って水分を抜きます。そうすることで、卵液を合わせた時に水っぽくならずに焼きあがります。ほうれん草は、鮮度が落ちると色が褪せて、しなっとして瑞々しさがなくなるので、新鮮さにこだわります。煮込み料理のレンズ豆のシチューというのがあるんですけど、最後に炒めたほうれん草を入れています。煮込みは、たくさんの具材を入れて煮込むとおいしくなるので、水分は、気にしません。スペイン料理は、煮込むか、すごい簡単かのどちらか。時間がかかるか、かからないか、中途半端はあまりないんです。にんにくとオリーブオイル、生ハムを入れて、そこに野菜を加えて、さっとできるものが多いです。
写真)ほうれん草のトルティージャ/シンプルな材料にオリーブオイルとにんにくの風味がきいたスパニッシュオムレツ
山川:スペイン料理は、食材からの味ということですが、だしなどは、取ったりしているんですか?
風間氏:チョリソや生ハムを入れることでだしになるので、食材の方が重要。魚でもだしを取るんですが、メインディッシュの魚料理に、味の補いや、隠し味にクノールを使ったりします。パエリアは、基本的に水と食材の味だけで作るんですが、日本では、スープを大事にしてだしで炊く店もあるので、うちのスペイン人は、あれはだしで炊いた米だから、パエリアじゃないと。うま味の秘密は、野菜をソテーしたソフリトです。玉ねぎ、トマト、にんにく、ピーマンをトロトロによく炒めて、それを何杯かパエリアに入れて炊くんです。ソフリトを入れると味が引き締まっておいしくなる。入れないと味がぼやけてしまう。ソフリトは、スペイン料理で基本の一番大事なものです。
写真)魚貝類のシチュー/おこげが絶品のパエリア/生ハム盛り合わせ